研究テーマ

 健康で持続可能な生活に貢献するため、

 ○ 微生物の能力を定量的、動的に解析する。
 ○ 微生物の挙動を予測し、制御する。
 ○ 微生物の機能を引き出し、産業に応用する。

という工学的なアプローチで以下の研究を行っています。

1.固体連続併行複発酵システムを用いたバイオエタノール生産
2.バクテリアを用いた脱リグニン
3.固体併行複発酵に適したセルラーゼの開発

4.乳酸菌の共生と炭水化物への接着現象の解明と利用



1.固体連続併行複発酵を用いたバイオエタノール生産

(1) バイオエタノールをとりまく状況
 バイオマスは再生可能でカーボンニュートラルな(炭酸ガスの増加を伴わない)資源であり、化石資源を子孫のために温存し、地球温暖化を防止するために、その有効利用は急務となっている。中でも、持ち運びが可能な燃料であり、化学繊維などの原料にもなるエタノールは、世界中でその生産方法が研究されている。ブラジルではサトウキビを原料として1984年には既に年間1000万kL以上のエタノールが生産されており、アメリカでも主としてトウモロコシを原料として実生産が行われ、その生産量は2000年以降急増している()。しかし、トウモロコシなど可食部を原料とするエタノール生産は食糧と競合し、食料品の値上がりや途上国の食糧不足などの問題を生じるため、2008年の洞爺湖サミットで「非食用植物や非可食バイオマスから生産される第二世代バイオ燃料の開発・商業化を加速する」という声明が出された。

(2) バイオエタノール生産における課題
 ところで、バイオマスを利用しようとするそもそもの目的は、化石資源の節約にある。従って、エタノールの生産のために投入する化石資源由来のエネルギーは最小限に抑え、エネルギー収支(エタノールとして得られるエネルギー/生産に投入するエネルギー)は1を超えていなければならない。また、その普及のためには、生産コストを100円/L程度に抑えなければならない。
 一般に、生産スケールを大きくするほどエタノールあたりの生産コストと投入エネルギーを低減できるが()、逆に、バイオマスの収集・運搬に要するコストとエネルギーは増大する。ところが、日本の主なバイオマスとして、稲ワラ(利用可能量年間700万トン弱)、林地残材、廃材、剪定くずなど木質系バイオマス(約390万トン)、事業所系厨芥(約447万トン)などがあるが、その排出場所は広範囲に分布し、事業所系厨芥は多種多様である。さらに、稲ワラや木質系バイオマスはかさばり(例えばロールベイラーで収穫した稲ワラの比重は0.1しかない)、事業所系厨芥は高水分含量(70〜90%)であるため、単位エタノールあたりの原料輸送に費やすエネルギーは大きくなってしまう。従って、原料の輸送距離を抑えることができ、かつ、多品種に柔軟に対応できる小規模生産であっても、生産に投入するエネルギーとコストを抑えられるシステムの開発が必要である。
 また、従来のエタノール発酵は系の8〜9割を水が占めており、これは、得られるエタノールの5〜10倍の廃水が出ることを意味している()。この廃水の処理には多大なコストとエネルギーが必要であり、更に、残渣や廃水に含まれる窒素、リン酸、カリ、その他微量元素は、バイオマスを収穫した土地に戻さなければ、土地はやせていき、バイオマスを持続的に生産することができない(施肥にはコストがかかるだけでなく、肥料の生産にエネルギーを消費することを忘れてはならない)。残渣や廃水に含まれる元素を農地に戻すのであれば、その輸送に費やすエネルギーとコストも最少でなければならず、この意味においても、省エネ低コストで小規模生産が可能なシステムの開発が必要である。

(3) 現在の研究 −CCSSF Systemの開発−
 上述の問題を解決する生産システムとして、脱リグニンしたバイオマスに最小限の水、糖化酵素、酵母を混合し、糖化と発酵を同時に行う(併行複発酵)とともに、生じるエタノールを発酵槽のヘッドスペースから連続的に回収するConsolidated Continuous Solid State Fermentation (CCSSF) Systemの開発を進めている。従来のバイオエタノールの製造工程は、脱リグニンしたバイオマスに水を加え、糖化酵素によって単糖に分解する工程、酵母などの微生物で発酵する工程、エタノールを蒸留回収する工程を別々に行っているのに対して、CCSSF Systemではこれらを統合(consolidate)して同時に行う()。また、従来法では系の80%以上を水が占めるのに対して、CCSSF Systemでは、水分は50〜60%に抑え、半固体状で糖化と発酵を行う。さらに、生産されるエタノールは発酵槽のヘッドスペースガスを凝縮塔に循環させることによって連続的に回収する。
 ラボスケールのCCSSFシステム()を用い、デンプンの繰り返し発酵を行ったところ()、最終的に消費された165 gのデンプンから87 gのエタノールが得られ、収率は93%であった。槽内エタノール濃度が高まるほど、凝縮塔には高い濃度のエタノールを回収することができるが、エタノールによるダメージで酵母の発酵力が低下するので()、槽内エタノール濃度を最適な値に制御することがポイントである。
 CCSSF Systemは以下のような長所を持っている。
1)) 小型でシンプル()
  ・維持管理が容易。
  ・既存工場の一角に設置でき、移動式さえ可能。
2) 省エネ()
  ・保温には既存工場などの低温廃熱を利用できる。
  ・凝縮には冬場の外気温が利用できる。
3) 低コスト
  ・設備投資が少ない(直径3 m×長さ6 m程度なら付帯設備を含め、約2億円と試算している)。
  ・原料を繰り返し投入することで、高コストの酵素と酵母を実質的に再利用できる。
4) ゼロエミッション
  ・廃水はほぼゼロ。
  ・残渣の水分も少なく、簡単な後発酵の後、堆肥として農地に還元できる。

 平成22年度から、環境省の地球温暖化対策技術開発事業の委託を受け、50 Lスケールの実験装置を製作し、食品廃棄物、事故米、廃綿繊維などからのエタノール生産を検討している。


2.バクテリアによるバイオマスの脱リグニン

(1) 脱リグニンとは
 植物は主としてセルロース、ヘミセルロース、リグニンからなり、セルロースは鉄筋、ヘミセルロースは鉄筋を束ねる針金、リグニンはその隙間と表面を覆うコンクリートに例えられる。セルロースはグルコースがβ-1,4結合した多糖、ヘミセルロースはキシロース、アラビノースなどの5炭糖、マンノース、ガラクトース、グルコースなどの6炭糖から成る多糖である。リグニンはモノリグノールが不規則重合した複雑な網目構造をもち、酵素を含めた分子量10 k以上の物質は網目を通過することができない。このため、セルロースやヘミセルロースを酵素で糖化するためには、リグニンの障壁を除去する前処理が必要となる。

(2) 既往の脱リグニン法とその問題点
 これまでに様々な脱リグニン法が開発されているが()、物理的・化学的な方法はエネルギー消費が大きく、そのコストはエタノール1 Lあたり100円を超えるという試算もある。これに対して、白色腐朽菌を用いる生物的な方法は、エネルギー消費、コスト共に小さいが、処理に月単位の長時間を要し、腐朽菌自身が炭水化物を消費してしまうという課題が残されている。

(3) 現在の研究 −バクテリアによる迅速省エネ高収率の脱リグニン−
 当研究室では、水生植物の高速コンポスト化の研究において、2種類の微生物Thermobifida fsucaUreibacillus thermosphaericusコンポスト化反応を再構成することに成功した()。T. fuscaはセルロース資化生の好熱性放線菌であり、U. thermosphaericusはリグニン分解能をもつ好熱性桿菌である。U. thermosphaericusはリグニン分解能をもち()、増殖が早いだけでなく、糖を全く資化しないという特筆すべき性質を持っている。そこで、本菌を用いてバイオマスの迅速省エネ高収率の生物的脱リグニン技術を開発すべく、研究を進めている。これまでに、コーンコブ、バガス、稲ワラなどの草本系バイオマスについて脱リグニン効果を確認しているが、現時点ではその脱リグニン活性は十分ではなく、コスト的にも問題があるため、本菌の能力を向上させる研究を行っている。

3.固体併行複発酵に適したセルラーゼの開発

(1) セルロースの酵素糖化
 セルロースはβ-1,4結合したグルコースからなるポリマーであり、これを分解する酵素は、非結晶領域のセルロースに作用するendo-β-glucanase(EG)、セルロースの還元末端もしくは非還元末端からセロビオース(グルコース2分子がβ-1,4結合した二糖)を切り出すcellobiohydrolase(CBH)、セロビオースを含むセロオリゴ糖をグルコースに分解するβ-glucosidase(BG)の3種に大別される。

(2) セルロース糖化の問題点
 セルロースの大部分は、セルロース分子同士が水素結合を形成し、固い結晶構造をとっている。このため、α-1,4結合したグルコースからなるデンプンに比べてその分解には多量の酵素が必要になる。セルロースの結晶性領域は主にCBHによって分解されるが、セルロース単位重量あたりのCBHが攻撃できるサイトは限られ、また、セルロースに吸着したCBHの一部しか実質的には機能していないことが知られている。このため、例え酵素量を増やしても、基質表面が酵素で飽和するとそれ以上糖化速度が上がらなくなってしまう。セルロースの結晶構造をほぐせばこの問題を回避できるが、「ほぐす」ことはセルロース分子の間に水が入ることを意味し、セルロース濃度の低下、得られる糖液濃度の低下、得られるエタノール濃度の低下につながり、ひいては蒸留コスト(エネルギー)の増加につながってしまう。

(3) 現在の研究 −セルロースの低コスト迅速糖化−
 高濃度のセルロースを、迅速に、少ない酵素量で糖化することは、蒸留コスト、設備コスト、運転コストの低減につながる。本研究室で開発した、バイオマスの糖化と発酵を同時に行うCCSSFは、反応槽が一つで済み、酵母がすぐに生産物を資化するので糖化酵素に対する生産物阻害が回避でき、さらに、バイオマスを繰り返し投入することによって酵素コストを低減できる。また、CCSSFにおいては、水分が少なく酵素は基質と空間的に近接していることを利用して、セルロースの糖化効率を上げる研究、固体発酵に適したセルラーゼを著量生産する微生物の探索を行っている。


4.乳酸菌の共生および接着現象の解明と応用

(1) 乳酸菌と酵母の共生
 乳酸菌と酵母は人類に最もなじみ深い微生物であり、世界中の発酵食品で利用されている。一部の微生物管理が行き届いた製品(例えばビールやヨーグルト)を除けば、ほとんどの発酵食品には乳酸菌と酵母が共存している。乳酸菌は、糖やデンプンをはじめとする多糖から乳酸を生産することによってエネルギーを獲得するが、蓄積した乳酸は自身の生育や物質生産を阻害してしまう。これに対して酵母の多くはデンプンなどの多糖を資化することができないが、好気条件下では乳酸を資化することができる。つまり、乳酸菌にとって、酵母は老廃物である乳酸を除去してくれるパートナーであり、酵母にとって、乳酸菌は自分が資化できない多糖を乳酸に変換してくれるパートナーと考えることができる。

(2) 乳酸菌は酵母や炭水化物に接着する
 このような観点から、乳酸菌によるケフィラン(免疫賦活効果や保湿剤に利用できる多糖)の生産において、パン酵母と共培養を行い、乳酸の蓄積を抑制したところ、ケフィランの生産性を2倍以上に向上させることができた()。この研究の過程で、乳酸菌の多糖生産性は酵母との物理的な接触によっても促進されることを見いだした()。パン酵母の表層はマンナンに覆われていることから、乳酸菌側は表層のタンパク質で酵母のマンナンと相互作用している、という作業仮説を立て、乳酸菌表層のタンパク質を可溶化し、マンナンタンパク質をリガンドとしてアフィニティ精製し、同定した(図)。すると、意外なことに、分子シャペロンDnaK、GroELや解糖系の酵素GAPDHなど、本来は細胞質に局在するタンパク質が乳酸菌の表層に輸送され、酵母との接着タンパク質として機能していることがわかった。
 これらのタンパク質が他の細胞との接着タンパク質として機能していることは、実は様々な微生物で報告されており、乳酸菌、大腸菌、ピロリ菌などのヒト消化管への定着や、病原菌のヒト表皮細胞への感染などに関与することが報告されている。

(3) 現在の研究 −接着メカニズムの解明とプロバイオティクスへの応用−
 DnaKについてさらに詳細に検討したところ、DnaKは酵母、乳酸菌、マンナンの他に、腸管のムチン、セルロース、キチンなどにも結合することがわかってきた。これは、乳酸菌などの善玉細菌の腸管への定着を議論する場合、腸管上皮細胞への接着だけでなく、食物繊維との相互作用も考慮しなければならないことを意味している。現在、これらの接着タンパク質の性質をさらに詳細に検討するとともに、プロバイオティクスに応用する方法を検討している。
(プロバイオティクス:人体に良い影響を与える微生物。または、それらを含む製品、食品。)